福井の県民衛星「すいせん」、キーマンの思い

「すいせん」と同タイプの超小型人工衛星の模型(左)が置かれたオフィス。「要求条件を満たす、低コストで素早い衛星作りには、大学からの蓄積が生きている」と話す中村友哉さん=東京・日本橋

2020年―。福井の県民衛星「すいせん」が、いよいよ打ち上げの年を迎えた。カザフスタンのバイコヌール宇宙基地から4~9月にも飛び立つ予定で、福井の宇宙産業が次のステップを踏み出す。プロジェクトのキーマンたちにこれまでの取り組みを振り返ってもらい、思いを語ってもらった。

⇒【図解】県民衛星「すいせん」とは

「すいせん」と同タイプの超小型人工衛星の模型(左)が置かれたオフィス。「要求条件を満たす、低コストで素早い衛星作りには、大学からの蓄積が生きている」と話す中村友哉さん=東京・日本橋
「すいせん」と同タイプの超小型人工衛星の模型(左)が置かれたオフィス。「要求条件を満たす、低コストで素早い衛星作りには、大学からの蓄積が生きている」と話す中村友哉さん=東京・日本橋

■アクセルスペース(東京) 中村友哉CEO

東京・日本橋のオフィス街に立つ、モダンな3階建てビル。この中で人工衛星が作られているとは、想像がつかないだろう。超小型衛星に特化したビジネスを展開する宇宙関連ベンチャー「アクセルスペース」が入居している。

県民衛星技術研究組合に参画する同社CEOの中村友哉さん(40)は「地方での人工衛星開発は、打ち上げ花火に終わるケースが多い。衛星をどう利用し、継続していくかが肝心」と話す。

2008年、国の大学発ベンチャーへの助成金を受け起業した。「超小型衛星が社会に役立つツールになるという確信があった」。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の技術実証衛星の製造と運用を受注するなど、これまで5基の開発・運用に成功した。

県民衛星プロジェクトでは19年3月、組合との間で衛星の製造・運用に関する契約を結んだ。アクセルスペースは22年を目標に超小型人工衛星を数十基飛ばし、世界中の陸地を毎日観測する「アクセルグローブ」計画を進めており、「すいせん」はその衛星の一つになる。

県民衛星の取り組みに「人工衛星製造を産業にするという自治体は初めて。期待している」。福井県が目指す人工衛星量産化の可能性については「図面通りに作るだけではない、クリエイティブなものづくりが求められる。新しい産業を切り開いてほしい」とエールを送った。

【なかむら・ゆうや】1979年、三重県生まれ。2007年、東京大大学院博士課程修了。在学中、世界初の大学生手作りの超小型人工衛星「キューブサット」を含む3基の衛星開発に携わる。東大大学院航空宇宙工学専攻の特任研究員を経て08年にアクセルスペースを設立。内閣府宇宙政策委員会委員を務める。

人工衛星による画像を示しながら「衛星データを握る、新しいビジネスになる」と語る進藤哲次さん=福井市羽水2丁目のネスティ本社
人工衛星による画像を示しながら「衛星データを握る、新しいビジネスになる」と語る進藤哲次さん=福井市羽水2丁目のネスティ本社

■県民衛星技術研究組合 進藤哲次理事長

「飛行機と違って人工衛星は常に上空を飛んでいて、定期的に撮影できる。地図ではイメージできない地形の変化が分かる。監視が必要な分野に衛星データは最適だ」

衛星画像の利用システムを開発する、県民衛星技術研究組合の進藤哲次理事長(69)=ネスティ(福井市)社長=は、福井発の宇宙ビジネス創出に意欲を燃やす。衛星データの利活用分野に関しては、ネスティ、福井ネット(福井市)、福井システムズ(坂井市)、富士通(東京)が共同で取り組んできた。

衛星が捉えた福井市街がパソコン画面に広がる。開発した衛星画像表示システムは、土砂災害や急傾斜地の危険区域、病院や避難所、河川の水位観測ポイントなどを画像に表示できる。以前の画像と比較すれば、変化のあった箇所をマーキングしてくれる。

システムは行政での利用を念頭に、すでに県で試験を進めている。森林や河川、環境、農業など各部署の目線で利用方法を検証。アイデアを出してもらい、機能強化につなげていく。

進藤さんは「自治体が持つ防災システムに、衛星データを連携させるアプリケーションを作り販売したい。いよいよ打ち上げ。ビジネスも加速させていく」と決意をみなぎらせた。

県民衛星の名称「すいせん」に決定 福井県など打ち上げ目指す超小型人工衛星

県民衛星の名称が「すいせん」に決まり、衛星の模型を囲む名称考案者の5人と杉本知事(右)、進藤理事長(左)=2019年11月10日、坂井市の福井県児童科学館
県民衛星の名称が「すいせん」に決まり、衛星の模型を囲む名称考案者の5人と杉本知事(右)、進藤理事長(左)=2019年11月10日、坂井市の福井県児童科学館

福井県や県内企業が2020年度上半期の打ち上げを目指す超小型人工衛星「県民衛星」の名称発表イベントが2019年11月10日、坂井市の福井県児童科学館で開かれ、名称は公募で最も応募数が多かった「すいせん」に決まった。県の花である水仙は風雪に耐え抜いて咲くことから、宇宙の過酷な環境で運用される人工衛星の名称にふさわしいとして選ばれた。

「県民衛星プロジェクトDAY」と銘打った発表イベントで、杉本達治知事と、衛星の開発を進めている県民衛星技術研究組合の進藤哲次理事長が「すいせん」と書かれたフラッグ(旗)をお披露目した。進藤理事長は「水仙は花の形が星のよう。福井県の衛星にぴったりの名前」と講評した。

県によると、応募があった1344点のうち、62点が「すいせん」だった。この中から抽選で優秀賞5人を選び、発表会で再度抽選した結果、敦賀市の辰巳里香さん(49)が最優秀賞に決まった。辰巳さんは「県民衛星の事業が大きく花開くよう願って、すいせんにしました」と話していた。

■福井の夢、宇宙で花咲け

「みんなのゆめをのせて とびたて」「宇宙空間に美しい“すいせん”の花を咲かせよう!」―。県民衛星の名称が「すいせん」に決定した。10日に県児童科学館で開かれた発表会では「すいせん」の名が書かれたフラッグ(旗)に、訪れた子どもたちが熱い期待と応援のメッセージを書き込んだ。宇宙にまつわる体験イベントもあり、来年の打ち上げに向けた機運を盛り上げた。

名称募集で「すいせん」は最多の62件が寄せられた。発案者の一人で、優秀賞となった奈良日葵さん(鯖江市)は「水仙には『私の元へ帰ってきて』という花言葉がある。みんなの思いを乗せて飛んで行き、また福井に戻ってきてほしい」と話した。同じく優秀賞の川﨑信幸さん(66)=あわら市=は「防災などにはもちろん、米作りをしているので、衛星のデータが農業に生かせればいいな」と期待を込めた。

フラッグに「宇宙大好き」と書いた杉川颯太朗君(福井市)は「ロケットに乗って広い宇宙にどんなものがあるか見てみたい」とにっこり。「名前いいね!」「ファイト」などと書いたのは、佐藤絢香さん(同)と岡田侑子さん(同)。佐藤さんは「家の近くに水仙を育てている人もいるし、水仙の花が好きだから気に入った」と満足そう。岡田さんは「絶対に打ち上げを成功させてほしい。私も宇宙へ行って、ダンスを踊りたいな」と目を輝かせた。

県では、この日作った応援フラッグを「すいせん」の機体公開時などに展示。カザフスタンのバイコヌール宇宙基地にも持ち込み、打ち上げを見守る予定だ。

県民衛星技術研究組合の進藤哲次理事長は、応援フラッグに「宇宙ビジネス完遂!」と書き込んだ。「ついに名前が決まった。衛星からのデータ活用に向け、ソフトウエア開発に全力を挙げている。何が何でもやり遂げる」と決意を新たにしていた。

会場では、紙コップなどを使い光のスペクトル(虹)を見る分光器作りや、フラスコを真空状態にする実験など体験イベントが開かれ、人気を呼んでいた。福井新聞社の「ゆめ つくる ふくいプロジェクト」で製作した移動式の「どこでもプラネタリウム」の上映会も開かれ、親子連れらでにぎわった。

県民衛星プロジェクトDAY 11月10日、エンゼルランドふくい

県民衛星プロジェクトDAYチラシ
県民衛星プロジェクトDAYチラシ(クリック・タップすると拡大版がご覧になれます)

「県民衛星プロジェクトDAY ~福井から宇宙へ」は2019年11月10日、福井県坂井市の福井県児童科学館 エンゼルランドふくいで開かれる。県民衛星の名称発表会では、来場者に抽選で宇宙グッズをプレゼント。そのほか宇宙に関する工作ワークショップや科学の不思議を体感できる教室などの体験ゾーンや、県民衛星の模型や福井発の宇宙関連の取り組みを紹介する展示ゾーンなどがあり、宇宙の魅力を満喫できるイベントとなっている。

【場所】福井県児童科学館 エンゼルランドふくい(福井県坂井市春江町東太郎丸3-1)

【日時】11月10日午前10時~午後4時半

【各イベント・ゾーン紹介】

■名称発表会(午後1時~午後1時半)

2020年度に打ち上げる県民衛星の名称を発表。来場者には抽選で宇宙グッズをプレゼント!

■宇宙と科学の体験ゾーン(午前10時~午後4時半)

▽「人工衛星をつくろう(ペーパークラフト)」
午前:人工衛星をつくろう(ペーパークラフト)
午後:真空大実験 ~空気の不思議~

▽「CDで分光器をつくろう 光のスペクトル監察

▽「スライムをつくろう」

▽「宇宙に関する本の紹介」

▽「工作ワークショップ(隕石キャッチ、くるくるUFO)」

■福井から宇宙へ 展示ゾーン

キュアテックス、クラレファスニング、サカセ・アドテック、鯖江精機、セーレン、タイヨー電子、トーヨーマシックス、ナカテック、ネスティ、春江電子、福井県工業技術センター、福井工業大学“ふくいPHOENIXプロジェクト”、福井システムズ、福井ネット、ヤマウチマテックス、山田技研

■応援フラッグをつくろう!

県民衛星の名称が書かれたフラッグに、応援メッセージや宇宙への夢を書いて、フラッグを完成させよう!

■どこでもプラネタリウム(午後2時~午後4時半)

直径5m、高さ3.5mの巨大な移動型プラネタリウムで満点の星空を観賞しよう。