独学でプラネタリウムのドーム製作 愛知県の加藤智さんに学ぶ

ドームの製作について、どこプラのメンバーにアドバイスする加藤さん(左)=福井市の福井大文京キャンパス
ドームの製作について、どこプラのメンバーにアドバイスする加藤さん(左)=福井市の福井大文京キャンパス
ドームの製作について、どこプラのメンバーにアドバイスする加藤さん(左)=福井市の福井大文京キャンパス

学生や福井新聞記者が力を合わせて、20~30人が入れるプラネタリウムドームを作るプロジェクトを進める中で、力強い“先輩”を見つけた。

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個人でプラネタリウムのドームを製作し、図書館などで出張上映している男性が愛知県にいる。経験者の視点から助言をもらえればと連絡を取ると、「福井に行くのでぜひ私の作った現物を見てほしい」と快い返事がきた。

男性は新城市の加藤智(さとし)さん(47)。プラネタリム施設で解説などを担当していた元スタッフで、4年前に好きが高じて独学で作り上げたという。9月下旬、福井大で加藤さんに直径4メートルのドームを広げてもらい、製作工程や運用方法などを教わった。

ドーム素材は、外側が黒、内側が白色で、遮光性に優れた布を使用。最も苦労したのは、裁断した布を家庭用ミシンでドーム状に縫い合わせる作業だった。布は伸び縮みするため、ずれが生じやすい。光の漏れにもつながるため、接合部分はさらに上から布を縫い合わせていた。1日2~3時間の作業で約1カ月かかったという。

ドームは扇風機1台で膨らませる仕組み。ドームが浮き沈みしないよう、風量を微調整する装置も独自に作った。投映機はプラネタリウム専用のソフトが組み込まれたプロジェクターを使っており、星の動かし方などソフトの使い方も教わった。

「どこプラ」メンバーは「今まで遮光性の観点しかなく、素材の伸び縮みまでは考えていなかった」と大変参考になった様子。加藤さんは今後もメンバーの相談に乗ってくれるとのこと。“先輩”として、心強い存在になりそうだ。

加藤さんが製作した直径4メートルのドーム
加藤さんが製作した直径4メートルのドーム

プラネタリウムの投映機製作さぁ本番 作業本格化、ドーム素材選びも

プラネタリウムのドームを構成するパーツ製作に向け、型取りをするメンバー=福井市の福井大文京キャンパス
プラネタリウムのドームを構成するパーツ製作に向け、型取りをするメンバー=福井市の福井大文京キャンパス

 福井県内の大学生と高校生、福井新聞の記者が、持ち運び可能なプラネタリウムドーム製作に取り組んでいる「どこでもプラネタリウム(どこプラ)プロジェクト」(清川メッキ工業、鯖江精機、ナカテック特別協力)は、9月から本番用のプラネタリウム製作をスタートさせた。6月に完成させた試作機では、星の見せ方や、ドーム素材の選び方など本番用の製作に向け課題が浮上。一つ一つクリアしながら、作業はいよいよ本格化してきた。

 試作機は、黒色ビニールシートを扇風機で膨らませて直径3メートルのドームを作り、中に設置した投映機で星空を映す仕組み。投映機は直径約30センチの半球のアクリル製容器に小さな穴を開け、内側に設置した電球で照らす。

 ただ、試作機はあくまで本番に向けた実験的な要素が強く、「本物」の星空を再現するためには改良が必要だ。例えば投映機は、南半球の星空も映せるように、半球容器を二つにしたり、耐久性を高めるためにアルミ製にする。また季節や時間による星の動きの変化を見せるために、回転機能を備えることにした。

 「でも、回転する機能って自分たちだけでできるかなぁ…。機械に詳しい学生はいないかな―」。そこで、福井高専機械工学科5年渡辺虎生太さんに白羽の矢を立てた。渡辺さんは、昨年度に福井高専生らが打ち上げた「スペースバルーン」でリーダーを務めた。快く引き受けてくれた渡辺さんが9月から「助っ人」として加わり、同校の3Dプリンターで作った部品や、市販の機器などを組み合わせて投映機の製作を進めている。

 一方、ドーム部分も改良が必要だ。試作では、ビニールシートが薄くて遮光性が低かった上、黒色のため光を吸収してしまい、星が見えづらかった。その反省を踏まえて素材を改めて選定中。ドームの外側は遮光性を高めるために黒色にし、内側は光を見えやすくするために白色にする予定だ。

 大きさも子ども20~30人が同時に鑑賞できるよう、直径3メートルから5メートルに拡大することにした。現在は段ボールで型紙を作っている。

 メンバーの小川実咲貴さんは「本番用の投映機やドームはより正確な作業が求められる。きれいな星空を再現するため、みんなで協力して頑張りたい」と意気込んでいる。

愛知教育大学を視察「負けられない」 どこでもプラネタリウム先行団体

愛知教育大天文愛好会COREが製作したプラネタリウムドーム内で、横井会長(右)から説明を受ける福井大の浅見さん=愛知教育大
愛知教育大天文愛好会COREが製作したプラネタリウムドーム内で、横井会長(右)から説明を受ける福井大の浅見さん=愛知教育大
愛知教育大天文愛好会COREが製作したプラネタリウムドーム内で、横井会長(右)から説明を受ける福井大の浅見さん=愛知教育大

プラネタリウムドーム製作に向け、“先進団体”の事例を参考にできないか。そう考えた「どこプラ」メンバーは、7月6日に愛知教育大(愛知県刈谷市)の天文愛好会COREを訪ねた。同会が作った投映機には、鑑賞者を楽しませる工夫が詰め込まれており、メンバーは大いに刺激を受けた。

同会の学生6人から説明を受けた。投映機はわれわれと同じ半球の容器だったが、回転させたり、光の明るさを調節したりする機能を備えていた。最も驚いたのは、朝焼け、夕焼けを演出できる仕組み。ドームの外から、赤、緑、青の光の三原色のLEDで照らして再現するという。

ドームは直径3メートルで、白色の布製。軽量なため、たためば持ち運びも可能だ。同会会長の横井瑛一さん(同大3年)は「軽い素材にこだわりました」と話し、送風機3台を使ってドームを膨らませることができると教えてくれた。実際に投映機を作動させると、ドーム内に美しい星々が浮かび上がり、われわれの試作機とは雲泥の差だった。

地域の公民館などに出張してプラネタリウムを上映するときの説明プログラムは、季節ごとに流す音楽を変えるなどして飽きさせないよう心掛けているという。福井大の浅見祥宏さんは「すごいですね。自分たちも負けていられませんよ」と火が付いた様子だった。

プラネタリウム試作品完成 1号機の星ぼんやり…「おかしいな」 

プラネタリウムドームの前で記念撮影するプロジェクトメンバー=福井大の文京キャンパス
プラネタリウムドームの前で記念撮影するプロジェクトメンバー=福井大の文京キャンパス
プラネタリウムドームの前で記念撮影するプロジェクトメンバー=福井大の文京キャンパス

福井県内大学生と高校生、福井新聞の記者が、持ち運び可能なプラネタリウムドーム製作に取り組んでいる「どこでもプラネタリウム(どこプラ)プロジェクト」(清川メッキ工業、鯖江精機、ナカテック特別協力)は、6月末に試作の1号機を製作した。黒色のビニールシートを扇風機で膨らませ、中に設置した投映機で星空を映す仕組みだ。試しに見てみようと、福井大の教室内にドームを設置。数百の星々がきらめく様子を思い浮かべながら、投映機の電源を入れると―。

「おかしいな」。ドーム内で電源を入れた浅見祥宏さん(福井大工学部応用物理学科3年)が首をかしげた。投映機に手をかざすと星の輝きは確認できるが、ドーム内部にはかすかな光が見えるだけ。ほかのメンバーも「鑑賞できる代物ではないね…」。思い描いたプラネタリウムとは異なっており、教室内は重~い空気に。

それにしても、なぜ星がはっきり映らないのか。原因を探ってみた。投映機は「ピンホール式」と呼ばれるものを製作した。直径約30センチの半球のアクリル製容器に小さな穴を開け、内側に設置した電球で照らす仕組み。投映機を回転させて星の動きを見せられるようにするなど、より楽しめる工夫が必要だが、これ自体に大きな問題はなかった。

一方、ドーム部分には多くの課題が見つかった。使用しているビニールシートが薄くて遮光性が低い上、黒色のため光を吸収してしまう。そのため、星が見えづらくなっていたようだ。
メンバーは「事前の検討が足りなかった」と反省しきり。この失敗を次に生かすことが大事だ。私たちならではの特徴を備えた投映機やドーム製作を目指し、検討を重ねている。

プラネタリウム、試作品作りに奮闘中 ドームや投影機「課題山積み」

ドームを作る作業。素材のビニールシートを二等辺三角形に切って張り合わせるための準備として、段ボールを使って印をつけていく=福井県福井市の福井大学文京キャンパス
ドームを作る作業。素材のビニールシートを二等辺三角形に切って張り合わせるための準備として、段ボールを使って印をつけていく=福井県福井市の福井大学文京キャンパス
ドームを作る作業。素材のビニールシートを二等辺三角形に切って張り合わせるための準備として、段ボールを使って印をつけていく=福井県福井市の福井大学文京キャンパス

持ち運び可能なプラネタリウムドームを作り、子どもたちに星空を楽しんでもらう「どこでもプラネタリウムプロジェクト」(清川メッキ工業、鯖江精機、ナカテック特別協力)がスタートして3カ月。メンバーの大学・高校生と本紙記者は、まずは小型版の試作に奮闘中だ。投映機の形やドームの素材など、すべて自分たちで考えながら作業を進めているため、たびたび課題にぶつかる場面も…。一つ一つ地道にクリアしながら、本番用のドーム完成に向けて前進している。

星800個

最終目標は子ども約30人が入れるドーム(直径5メートル予定)を本年度内に作ること。まずは試作を通じて完成イメージを膨らませることにした。

投映機は、比較的手軽に製作できるとの情報を元に「ピンホール式」を採用。直径約30センチの半球のアクリル製の容器に小さな穴を開け、内側から照らすことでドームの天井に星を映す仕組みだ。

穴の大きさは星の明るさ(1~4等星)によって変える。1等星を映す最も大きな穴は直径2ミリ、最も小さな穴は同0.5ミリで、合計約800個。星の座標を記した紙をアクリル容器に貼り、星の部分を電動ドリルで開けていく。想像以上に慎重かつ根気のいる作業だ。これに光源の豆電球や電池、土台の木箱などを組み合わせ、投映機に仕上げる。

今後は、実際に星を鮮明に映し出せるかや、星空を回転させるなどの「見せ方」をどうするかが課題になりそうだ。

課題山積み

投映機を包むドームは、農業用の黒いビニールシートを使用。段ボールで二等辺三角形の型紙を作り、それに合わせて切ったシート16枚をテープでつなぎ合わせて作った。

扇風機で風を送って膨らませる実験を進めているが、空気が漏れて膨らまなかったり、シートの遮光性が低かったりするなど、素材選びでも頭を悩ませている状態だ。

メンバーは引き続き試作や実験を進めながら、プラネタリウムドームを製作した経験がある他県の大学への視察も計画している。

学生のリーダーを務める福井大工学部応用物理学科3年の浅見祥宏さんは「メンバー全員が初心者で、ゼロからのスタートのため課題は山積み。それでも満天の星空やオリジナルの星座を見せたい強い気持ちがあるので、みんなで協力しながら実現させたい」と意気込んでいる。

「どこでもプラネタリウム」計画始動

 真っ暗な部屋の天井に、輝く点がいくつも浮かび上がる。その点と点が結びつくと、さまざまな星座になった。見渡すと、いつの間にか壮大な星空が広がっていた―。幼いころにプラネタリウムを見に行ったとき、映し出された星が人工的なものとは思えなかった。自然と宇宙への想像がかき立てられた。

 「子どもたちに星空を楽しんでもらうため、プラネタリウムの装置を一緒に作ってみませんか」。県内の大学生や高校生に協力を呼び掛けたところ、何人もの学生が「面白そう。やってみたい」と賛同してくれた。

 プロジェクト名は「どこでもプラネタリウム」(清川メッキ工業、鯖江精機、ナカテック特別協力)。略して「どこプラ」。メンバーは福井大3年の6人、仁愛大2年の1人、高志高1年の2人、福井新聞記者4人の計13人。

 力を合わせて作るのは、20~30人が入れるプラネタリウムドーム。ドームの中に投映機などを設置し、満天の星空を映し出す予定だ。「どこでも」の名の通り、ドームは持ち運べるようにする。さまざまな場所に出張上映して、多くの人に親しんでもらう。

 4月1日、福井市の福井大文京キャンパスにメンバーが集まり、計画がスタートした。「せっかく作るのなら、世界に一つだけのプラネタリウムにしたいね」。メンバーで意見を出し合い▽福井の特徴を映し出す(恐竜、眼鏡など)▽地球以外から見た星▽その日の夜に見える星空―などの案が挙がった。

 ただ、全員が初心者。ドームの素材や投影機の性能はどうするのかなど、知識も技術も不足している。まずは比較的手軽に製作できる「ピンホール式」の装置を作ることに決めた。レンズを使わない簡単な仕組みのため、さまざまな製作例があり我々でも作れそうだ。

 学生のリーダーを務める福井大工学部応用物理学科3年の浅見(あさうみ)祥宏さんは「分かりやすく星について説明できる装置にしたい。少しずつ前に進み、みんなでやり遂げたい」と意欲を見せている。