「宇宙写ってる」「最高」 スペースバルーン挑戦7カ月

スペースバルーンの機体(右)から回収した映像データをパソコンで再生する福井高専生。鮮明に撮影されていることを確認し歓喜の表情をみせた=5日、宮古島市の佐良浜港

「やったぞ! 地球写ってる!」「宇宙は真っ暗!」―。スペースバルーンプロジェクト「ふーせん宇宙船」で、沖縄県宮古島市沖の海上で回収したカメラの映像データが無事再生された瞬間、福井高専生5人の笑顔がはじけた。高度約3万メートルの成層圏での撮影を目指し、機体の設計・製作に取り組み続けた7カ月。多くの実験や機体改良を重ね、撮影成功にこぎ着けた。

「波の合間に見える!」。福井高専生と本紙記者が港から漁船で機体の回収に向かってから約1時間15分。海上では強い雨に見舞われ大きく船が揺れる中での捜索となったが、宮古島の西の伊良部島沖約20キロに浮かぶ蛍光色の手作り機体を無事見つけた。ただ、撮影できているかどうか分からない。着水の衝撃でカメラは壊れていないか。海水が入り映像データは消えていないか。不安を抱えたまま、船上でカメラ内のカードを抜き取り、データが壊れないよう素早く真水に浸した後、乾燥させた。

宮古島(沖縄県)

「無事に写っていて…」。午後0時半、港に船が戻ると、学生5人は早速パソコンを囲み、祈るような思いでデータを再生した。ぐんぐん上昇する景色や雲を突き抜ける様子、風船が割れる瞬間などを確認すると、「よかった」と喜びの声があふれた。

この日、打ち上げ場所の砂浜で早朝から準備を開始。風船にヘリウムガスを注入して膨らませ、打ち上げるまでに20以上の手順があるが、一つでも欠ければ成層圏での撮影は困難となる。▽機体内のカメラのセッティング▽風船と機体をつなぐひもの結束―など、8人全員がそれぞれの役割を慎重に、的確にこなした。カウントダウンする余裕もないまま、ゆっくり手を放すと、風船は計算通りの速さで成層圏に向かって旅立った。休む間もなく海上班3人は港に移動し、漁船に乗り込み機体の回収へ。陸上班5人は島の高台から風船の位置をパソコンで確認し、無線で船に伝え続けた。

スペースバルーンを打ち上げる福井高専の生徒ら=15日、宮古島北部の海岸

リーダーを務める同高専4年の渡辺虎生太(こおた)さん(19)は「今までインターネットでしか見たことのなかった地球を見下ろす映像を、仲間と力を合わせて自分たちで撮影できたことに感動した。最高の気分」と興奮冷めやらぬ様子。漁船に乗って陸上班と無線でやりとりし、回収地点まで誘導する重要なミッションを果たした山本雄太さん(19)は「メンバーは役割分担し技術的な課題に対して試行錯誤してきた。チームプレーの成果です」と仲間に感謝した。

打ち上げに同行したスペースバルーンの国内第一人者、岩谷圭介さん(31)=北海道在住=は、「天気、波、装置の設計など不安要素は多かったと思うが、みんな本当によく頑張った。数々の問題を解決してきた経験は、将来必ず役に立つ」とねぎらった。

輝く地球撮った、高度約3万メートル スペースバルーン打ち上げ、回収

福井高専生と福井新聞記者が打ち上げたスペースバルーンで成層圏から撮影された画像=15日午前8時50分ごろ

漆黒の宇宙に浮かぶ地球は、太陽に照らされてまばゆい輝きを放っていた―。福井高専生5人と福井新聞の記者3人が取り組むスペースバルーンプロジェクト「ふーせん宇宙船」(鯖江精機、ナカテック特別協力)は15日、沖縄県宮古島市で機体を打ち上げ、高度約3万メートルからの撮影に成功した。成層圏から捉えた地球の様子が鮮明に写っており、宇宙の壮大さを実感したメンバーは喜びに浸った。

この日は午前6時すぎから宮古島市北部の海岸で打ち上げ準備を開始。気象観測用の風船にヘリウムガスを注入して直径約2メートルに膨らませ、4台のカメラを搭載した発泡スチロール製の機体をつり下げ、同7時半に打ち上げた。

風船は成層圏に到達後に破裂し、機体は海上に着水。回収した機体内のカメラのデータを確認すると、打ち上げ後にぐんぐん上昇していく様子や、真空に近い状態の成層圏から宇宙と地球が見える場面など、着水するまでの約100分間の映像が鮮明に写っていた。機体の側面に取り付けた福井県の恐竜ブランド「ジュラチック」キャラクターのラプトが、縮小版の福井新聞を背負って“成層圏旅行”する様子も捉えた。

回収は、風向きや機体の重量などからおおよその飛行経路を割り出すなどして把握。陸上から無線で指示を出す班と、漁船で機体を探す班に分かれて取り組んだ。宮古島の西にある伊良部島の沖合約20キロ地点で、打ち上げから約3時間半後に発見した。

スペースバルーンは、宇宙分野や科学技術に携わる人材育成を目指そうと福井新聞社が展開している「ゆめ つくる ふくいプロジェクト」の一環。

打ち上げ、10月15日に延期 天候不良で

打ち上げが翌日に持ち越しになり、機体(右)やパラシュートを最終チェックする福井高専生=14日、沖縄県宮古島市

福井高専生5人と福井新聞の記者3人が取り組むスペースバルーンプロジェクト「ふーせん宇宙船」(鯖江精機、ナカテック特別協力)は、14日に沖縄県宮古島市で予定していた機体の打ち上げを、天候不良のため15日に延期した。波が高く海上での機体の回収が困難になることから、専門家らの助言も踏まえて判断した。

スペースバルーンは、カメラなどを搭載した発泡スチロール製の機体を気象観測用の直径約2メートルの風船を使って打ち上げ、高度約3万メートルの成層圏から宇宙や地球を撮影する試み。上空では気圧が低くなるため、目標高度付近に達すると風船が膨張して破裂し、パラシュートが開いて落下する。同市の海岸から打ち上げて海上に着水させ、漁船で回収に向かう。

宮古島地方気象台によると、14日は打ち上げ予定時刻の午前9時の風速が6・3メートル。専門家の岩谷圭介さん(31)=北海道在住=や地元漁師から「波の高さは4~5メートルとみられ、回収に行くのは難しい」との助言を受け、翌日に持ち越すことにした。同高専生の一人は「天候だけはどうしようもない。でも残念」と恨めしそうに海を見つめた。

ただ、岩谷さんらによると、15日は天候が回復する見込み。リーダーを務める同高専4年の渡辺虎生太(こおた)さん(19)は「何としても打ち上げて成功させたい」と前を向き、機体の最終調整に取り組んだ。

「ふーせん宇宙船」は、宇宙分野や科学技術に携わる人材育成を目指そうと、福井新聞社が展開している「ゆめ つくる ふくい」プロジェクトの一環。

機体完成、宇宙撮影いざ!! 工夫随所に

完成したスペースバルーンの機体。海で発見しやすいようピンクの蛍光色で塗り、旗を立てた。側面に小型カメラを搭載している=福井高専

福井高専生5人と福井新聞の記者3人が取り組むスペースバルーンプロジェクト「ふーせん宇宙船」(鯖江精機、ナカテック特別協力)で、沖縄県宮古島市で打ち上げる機体が完成した。高度約3万メートルから、機体に搭載したカメラで宇宙や地球を撮影する計画だ。プロジェクト始動から7カ月。メンバーは上空の低温環境下でもカメラを作動させ続けたり、海上への落下時に転覆したりしないよう工夫を重ねてきた。打ち上げ本番は14日。ミッション成功に向け最終調整を進めている。

宇宙分野や科学技術に携わる人材育成を目指そうと、福井新聞社が展開している「ゆめ つくる ふくいプロジェクト」の一環。3月から製作に取り掛かった。

箱形の機体は、縦26センチ、横35センチ、高さ42センチ。重さは約1600グラムで全て手作り。同じ構造の機体を時間差で2機打ち上げる。カメラなどを収める箱は発泡スチロール製。心もとなく思えるかもしれないが、意外に丈夫だ。機体が海上に着水した際の転覆を防ぐため、箱の上部には高さ約30センチの発泡スチロールの部材を取り付けて重心を低くした。

1機当たり4台のカメラを搭載する。通常の小型カメラ2台と、約180度撮影可能なカメラが2台。映像を組み合わせることで360度の“視界”を楽しめる動画を作る計画だ。マイナス70度以下になる上空の低温環境下でもカメラを作動させ続けられるよう、シート状のヒーターで保温する仕組みを備えた。

温湿度や位置情報を記録するマイクロコンピューター(マイコン)も搭載し、箱の側面には県の恐竜ブランド「ジュラチック」キャラクターのラプトを取り付けた。

風船を浮かべてひもで係留し、空撮実験に取り組むメンバー=9月、福井市の三里浜

学生のリーダーを務める渡辺虎生太(こおた)さん(19)=福井高専4年=は「考えられるだけの対策を施した」と語り、本番が待ちきれない様子。廣野晴夏さん(19)=同=は「不安もあるけど、みんなの力で絶対成功させたい」と意気込んでいる。

今回のスペースバルーンは航空法上、「気球」に該当する。旅客機などの飛行に影響を及ぼす可能性があるため、打ち上げる日時や飛行経路を事前に関係機関に申請し、11日までに許可を得た。

岩谷圭介さん、試作機の出来に太鼓判

専門家の岩谷圭介さん(右から3人目)から機体の改善点を学ぶ福井高専生=8月、福井県鯖江市の同校

打ち上げ成功に向け、勇気づけられた1日だった。福井高専生5人と福井新聞の記者3人が挑戦中のスペースバルーンプロジェクト「ふーせん宇宙船」(鯖江精機、ナカテック特別協力)で先ごろ、スペースバルーンの国内第一人者の岩谷圭介さん(31)=北海道在住=を福井県鯖江市の福井高専に招きアドバイスを受けた。本番を想定した試作機を見てもらったところ「しっかり作り込まれていますね」と評価は上々。え、本当に? 飛び出したほめ言葉に、メンバーの心は躍った。

岩谷さんは北海道大の学生時代にスペースバルーンに独学で取り組み始め、2012年に個人として初めて国内での打ち上げを成功させた。これまでに95機の機体を製作、84回の打ち上げ実績がある。私たちメンバーにとっては“雲の上の存在”と言っても過言ではない。

岩谷さんからは活動を開始した3月から、電話やメールで助言をもらっていた。その際、岩谷さんが強調していたのは「まずは自分たちで考えてほしい」ということだ。特に学生に対しては、自力で壁を乗り越えてもらいたいとの思いが込められていた。岩谷さんの言葉を胸に刻み、メンバーは議論や実験を重ね、試行錯誤を繰り返してきた。

真空対策、防水もOK 撮影機体実験着々と

実験を行う福井高専生

福井高専生5人と福井新聞の記者3人が挑戦中のスペースバルーンプロジェクト「ふーせん宇宙船」(鯖江精機、ナカテック特別協力)。カメラを搭載した箱形の機体を風船につるして打ち上げようという取り組みなのだが、成功に向けてクリアすべき新たな課題が見つかった。上空での「気圧」の問題だ。

計画では、風船は高度約3万メートルまで上がって破裂し、海に落下した機体を回収する。機体は安価で軽く、加工しやすい発泡スチロール製の箱。機体の外側にはカメラのレンズを露出させる穴を開けており、ここにわずかな隙間ができるが、樹脂で埋めて密閉した。隙間から外気が入り込んだり、海に落ちた後に海水が流入するのを防ぐためだ。

しかし、ここで懸念が生じた。気圧は高度が上がるほど低くなる。一方、密封された箱の中は気圧が低くならないため、外気と気圧差ができ、箱が内部からの圧力で壊れる可能性があるのではないか。

上空で箱が破裂―。そんな最悪の映像が頭に浮かんだ。ほかのメンバーに相談すると、福井高専4年の渡辺虎生太(こおた)さんが「その可能性もあるかも。実験して確かめてみましょう」と提案。早速、準備に取り掛かった。

高度3万メートルの宇宙撮影挑む

4月1日正午。福井新聞の記者ら3人と福井高専の学生5人が、緊張した表情で福井市両橋屋町の三里浜海岸に集まっていた。カメラを取り付けた風船を打ち上げ、高度3万メートル付近から宇宙や地球を撮影する「スペースバルーン」の初めての飛行実験に臨むためだ。実験では風船に丈夫なひもを付けて係留しながら約50メートルの高さまで飛ばし、うまく空撮できるか確かめる。風船にヘリウムガスを入れ、さあ準備OK。3、2、1、ゴー。一斉に手を放す。すると風船は―。

スペースバルーンに挑戦しよう」。昨年12月、福井新聞本社の会議室。社内プロジェクト「ゆめ つくる ふくい」を翌年4月にスタートさせるのを前に、今後の活動内容を話し合う会議でメンバーの一人から提案があった。「面白そうだね」。賛同の声が相次ぎ、プロジェクトの一つとして取り組むことになった。

「ゆめ つくる ふくい」は、県や県内企業が2019年度に打ち上げを目指す「県民衛星」の機運を盛り上げ、県民の宇宙への関心を広げようと始めたプロジェクト。スペースバルーンに取り組むのは、経済部と社会部の中堅記者、インターネットに詳しいデジタルラボの若手社員の計3人だ。

福井高専の4年生5人も活動に興味を持ち、メンバーに加わってくれた。成功させるには専門家の助言も必要だろう。スペースバルーンの国内第一人者、岩谷圭介さん(31)=福島県郡山市=が計画に理解を示し協力してくれることになった。岩谷さんに進め方を相談し、本番は今年11月、沖縄県の宮古島で打ち上げを目指すことに決めた。

「ふーせん宇宙船」に挑戦するメンバー

【福井高専】

 ▽渡辺虎生太さん 福井高専機械工学科4年

 学生のリーダーを務める。「何でもできる」と周囲の信頼は厚い。手先が器用で、工作好き。エレキギターを趣味とし、バンドにも情熱を注ぐ。

 ▽山本雄太さん 福井高専電子情報工学科4年

 飲み込みが早く、周囲から頼りにされる存在。学生会の活動にも携わる。何かとちょっかいを出してくる小山田さんを軽くあしらっている。

小山田瑞季さん 福井高専電気電子工学科4年

 幅広い分野に関心を持ち、メンバーが行き詰まると鋭い指摘で導く。やんちゃな一面もあるが、根は素直。釣り、カメラ、読書などが趣味。

中野拓朗さん 福井高専電気電子工学科4年

 穏やかな性格で、よく笑う。あだ名は「てくろー」。漫画好きで、「進撃の巨人」の話題になると熱く語り出す。ファッションにこだわりを持つ。

廣野晴夏さん 福井高専機械工学科4年

 唯一の女性メンバー。柔軟な視点でアイデアを出す。普段は癒やし系としてみんなを和ませている。ロックバンド「モノブライト」が好き。

【福井新聞社】

吉川良治記者 福井新聞経済部

 チーム全体のリーダーを務める最年長者。唯一の文系出身で、理科や数学は苦手。県民衛星に触れ、「科学系のニュースを意識して見るようになった」。

嶋本祥之記者 福井新聞社会部

 普段は司法を担当。科学や気象への興味から、13年に気象予報士の資格を取得した。子ども向けの実験教室を開催し、科学の楽しさを広める活動にも励む。

橋本淳樹記者 福井新聞デジタルラボ

 ホームページ更新などの業務を担当。最先端の技術が大好き。タブレットPCが発売されると、購入して触りたくなる衝動を抑えられない。曲作りが趣味。